SUS303とSUS304の違い|快削ステンレスの使い分け

2026.08.20

SUS303とSUS304の違い|快削ステンレスの使い分け

量産の削りやすさを取るならSUS303、耐食性と溶接性を取るならSUS304。SUS303とSUS304の使い分けは、この一点に集約されます。

SUS303はSUS304に硫黄を添加した快削ステンレスで、切りくずが細かく分断されるため自動盤での連続量産に向いています。その代わり、耐食性と溶接性はSUS304に劣ります。この記事では両者の化学成分・機械的性質の違いから、用途別の選び分け、量産加工での実務ポイントまでを整理します。1952年創業、NC旋盤約60台で年間約300万個の部品を加工する立場から解説します。

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快削ステンレス 使い分け SUS303 SUS304 ヨシダセイコー

SUS303とは|快削ステンレスという位置づけ

SUS303は、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS304をベースに、硫黄(S)とリン(P)を意図的に多く含ませて被削性(削りやすさ)を高めた鋼種です。日本語では快削ステンレス鋼と呼ばれます。

注意したいのは、JISに「快削ステンレス鋼」という独立した規格があるわけではないという点です。同鋼種はJIS G 4303「ステンレス鋼棒」のなかに、他のステンレス鋼種と並んで規定されています。同じ規格内にはSUS420Fなど、被削性を高めた鋼種がほかにも含まれます。

棒材として流通することが多く、旋盤加工での量産部品に使われるのが一般的です。切削加工全体の考え方については金属部品加工の種類ガイド|旋盤・フライス・研削の使い分けを解説でも整理しています。

SUS303とSUS304の化学成分の違い

まず成分から見ていきます。JIS G 4303:2012に規定された値は次のとおりです。

元素 SUS303 SUS304 差の意味
C(炭素) 0.15以下 0.08以下 許容できる幅が広い
Si(けい素) 1.00以下 1.00以下 同じ
Mn(マンガン) 2.00以下 2.00以下 同じ
P(りん) 0.20以下 0.045以下 約4倍の許容量
S(硫黄) 0.15以下 0.030以下 約5倍の許容量
Ni(ニッケル) 8.00〜10.00 8.00〜10.50 ほぼ同じ
Cr(クロム) 17.00〜19.00 18.00〜20.00 やや低く設定されている

単位はいずれも質量%です。表を見ると、両者の実質的な違いは硫黄とりんの量に集約されることがわかります。ニッケルとクロムはほぼ同等で、耐食性を担う基本骨格そのものは共通しています。

なぜ硫黄を入れると削りやすくなるのか

添加された硫黄は、マンガンと結びついてMnS(硫化マンガン)という介在物を鋼の内部につくります。この介在物が、切削時に3つの働きをします。

  1. 切りくずを分断する:介在物を起点に切りくずが割れるため、長く伸びずに細かく分断されます
  2. せん断面を滑らかにする:切削抵抗が下がり、仕上げ面が安定します
  3. 工具の摩耗を抑える:刃先への凝着が減り、工具寿命が延びます

とくに1つ目が量産では効いてきます。切りくずが長く繋がる材料では、加工中に切りくずが製品や工具に絡みつき、無人運転を止める原因になるためです。快削材が量産に向くと言われる理由は、削る速さそのものよりも「止まらずに回り続けられること」にあります。

この仕組みは、銅合金における快削黄銅と同じ発想です。快削黄銅では鉛が同様の役割を果たします。詳しくはC3604/C3602の加工特性|快削黄銅の切削ポイントとRoHS対応を解説をご覧ください。

機械的性質の比較

JIS G 4303:2012に規定された同鋼種の機械的性質は次のとおりです。

項目 SUS303の規定値
耐力 205MPa以上
引張強さ 520MPa以上
伸び 40%以上
硬さ(HBW) 187以下
硬さ(HRBS/HRBW) 90以下
硬さ(HV) 200以下

強度面ではSUS304と大きな差はありません。快削材を選んだからといって、部品の強度設計を見直す必要が生じるケースは多くないと考えてよいでしょう。判断が分かれるのは、あくまで耐食性と溶接性です。

被削性・耐食性・溶接性のトレードオフ

硫黄の添加は、削りやすさと引き換えに別の性質を犠牲にします。3つの観点で整理します。

項目 SUS303 SUS304 理由
被削性 MnS介在物が切りくずを分断する
耐食性 MnS介在物が孔食(点状のさび)の起点になる
溶接性 × 硫黄・りんが熱間加工性を阻害し、割れやすい
強度 規定値に大きな差はない
入手性 ○(棒材中心) ◎(板・棒とも) 棒材での流通が主

耐食性が落ちる理由は、削りやすさをもたらしているMnS介在物そのものにあります。介在物の周辺は不動態膜(ステンレス表面に自然にできる保護皮膜)が途切れやすく、そこが孔食の起点になります。屋外・水回り・薬品環境では避けるのが基本です。

溶接性の低下はより明確で、硫黄とりんが溶接時の割れを招きます。溶接を伴う部品でこの材質を指定すると、後工程で問題が表面化します。

なお「ステンレスは難削材」という一般論とSUS303の快削性は矛盾しません。あくまでステンレスのなかで削りやすい部類であり、鉄系の快削鋼と同じ感覚では削れません。ステンレスが削りにくい物性的な理由はステンレス切削加工|SUS304とSUS316の違いを解説で詳しく扱っています。

SUS303とSUS304の使い分け

実務上の判断軸はシンプルです。次の条件に1つでも当てはまればSUS304、当てはまらず数量がまとまるならSUS303、という順序で考えます。

SUS304を選ぶべきケース

  • 溶接がある:溶接割れのリスクが高く、原則として避けます
  • 屋外・水回り・薬品環境で使う:孔食の起点があるため不利です
  • 食品・医療分野で衛生要求がある:介在物由来の腐食は避けたい領域です
  • 板材から加工する:棒材での流通が中心です
  • 曲げ・絞りなど塑性加工が入る:硫黄・りんは熱間加工性を下げます

SUS303が向くケース

  • 屋内・乾燥した環境で使う機械部品:シャフト、ピン、ブッシュ、継手など
  • 数量がまとまる量産部品:工具寿命とサイクルタイムの差が原価に効いてきます
  • 複雑形状で加工時間が長い部品:削る量が多いほど被削性の差が効きます
  • 細かい切りくず処理が必要な自動運転:無人運転の安定性が上がります

迷った場合は、まず「溶接の有無」と「使用環境」の2つを確認してください。この2点でSUS304が必要と判断されなければ、SUS303を検討する価値があります。

■ ご相談ください
図面の材質指定がSUS304のままでも、使用環境によっては快削材への変更でコストを下げられる場合があります。内容にもよりますが、まずはご相談ください。無料で相談する

SUS303の切削加工で押さえるポイント

この材料は削りやすいとはいえ、オーステナイト系ステンレス特有の性質は残っています。量産で安定させるための要点を挙げます。

加工硬化と刃先の当て方

オーステナイト系ステンレスは、削られた面が硬くなる加工硬化を起こしやすい材料です。切込みが浅すぎると、硬化した層の上を刃先が滑るだけになり、かえって工具が摩耗します。逃げるのではなく、硬化層の下までしっかり切り込むのが基本です。

刃先を鋭利に保つことも重要です。摩耗した刃物で押し付けるように削ると、加工硬化が進んで悪循環に入ります。

切りくず処理と熱の逃がし方

切りくずは分断されやすい一方、ステンレス全般は熱伝導率が低く、切削熱が刃先に集中します。切削油による冷却と、切りくずを確実に排出する条件設定が工具寿命を左右します。

バーフィーダを備えたNC複合自動盤。快削ステンレスの連続量産に用いる

バー材を自動供給するNC複合自動盤。切りくずが分断される快削材ほど無人運転が安定する

 

細物の連続量産では、バー材を自動供給する複合自動盤が適しています。当社ではTSUGAMI SS207-Ⅱ-5AX(同時5軸の複合自動盤)や中村留精密工業製 NTJ-100(NC複合自動盤)をはじめとするNC旋盤約60台を保有し、バー材でφ3〜φ65mm、切断材でφ3〜φ300mmの範囲に対応しています。設備の詳細は設備一覧をご覧ください。

寸法安定性と検査

熱がこもると寸法が動きます。公差の厳しい部品では、荒加工と仕上げ加工を分けて熱の影響を切り離す工程設計が有効です。量産では初品・中品・終品の測定記録を残し、ロットごとの傾向を管理します。

品質管理の考え方は品質・環境方針、旋削加工の対応範囲は旋盤加工の技術ページで紹介しています。実際の加工品は製作実績からご覧いただけます。

SUS304からの切り替えを検討するときの手順

すでにSUS304で流れている部品を快削材へ切り替える相談は少なくありません。材質の変更は図面変更を伴うため、次の順序で確認すると判断を誤りにくくなります。

ステップ 確認すること NGなら
1. 溶接の有無 組立時に溶接する部位がないか 切り替え不可。SUS304のまま
2. 使用環境 屋外・水回り・薬品・食品に触れないか 切り替え不可。SUS304のまま
3. 素材形状 棒材から削り出せる形状か 板材が前提なら入手性で不利
4. 後工程 曲げ・絞りなど塑性加工が入らないか 熱間加工性の低下がリスク
5. 数量 加工費の差が材料手配の手間に見合う数量か 単品・少量では効果が薄い

1と2で止まる案件が実際には多く、そこを確認せずに材質だけ差し替えると、後工程や納入先で問題が表面化します。逆に1〜5をすべて通過する部品であれば、切り替えの効果は数量に比例して大きくなります。

切り替えにあたっては、材料の手配リードタイムも確認しておくと安全です。棒材は径によって在庫状況が変わるため、量産の立ち上げ時期から逆算して手配計画を立てます。

発注前のチェックリスト

図面を出す前に、次の項目を押さえておくと受入後の手戻りを減らせます。

確認項目 確認の観点
材質記号 SUS303かSUS304か。代替可否を図面に注記したか
使用環境 屋内か屋外か。腐食環境の有無を伝えたか
溶接の有無 組立工程に溶接が含まれないか
表面粗さ 要求Ra値。快削材でも面粗さは条件次第で変わる
数量とロット 試作か量産か。年間数量の見込み
納期 材料手配期間を含めたスケジュールか

SUS303に関するよくあるご質問

Q1. SUS303はSUS304の代わりに使えますか?

溶接がなく、屋内など腐食環境が厳しくない用途であれば、代替できる場合が多いです。ただし耐食性と溶接性はSUS304より劣るため、使用環境の確認が前提になります。図面の指定変更を伴いますので、まずはご相談ください。

Q2. SUS303は錆びますか?

ステンレスなので通常の環境ですぐ錆びるわけではありませんが、SUS304と比べると錆びやすい材料です。硫黄由来のMnS介在物が孔食の起点になるためで、湿気の多い場所や塩分のある環境では点状のさびが出ることがあります。

Q3. SUS303は溶接できますか?

推奨されません。硫黄とりんを多く含むため溶接割れが起きやすく、溶接を伴う部品にはSUS304を選ぶのが原則です。どうしても必要な場合は、溶接部だけ別部品にして機械的に締結する設計変更を検討します。

Q4. SUS303を使うとどのくらいコストが下がりますか?

材料単価そのものはSUS304と大きく変わりませんが、加工時間の短縮と工具寿命の延長により、加工費の面で差が出ます。削る量が多く数量がまとまる部品ほど効果が大きくなります。具体的な効果は形状と数量によりますので、図面をお送りいただければ試算いたします。

Q5. SUS303に表面処理はできますか?

不動態化処理などは可能ですが、介在物の影響で仕上がりにばらつきが出ることがあります。耐食性を表面処理で補う想定であれば、材質そのものをSUS304に見直すほうが確実な場合もあります。

Q6. 図面にSUS304と書かれていますが、変更を提案してもよいものでしょうか?

設計意図が「ステンレスであること」なのか「SUS304であること」なのかで判断が変わります。使用環境と溶接の有無を確認したうえで、代替可能と判断できれば、図面に「SUS303可」と併記する形で提案されるケースがあります。最終的な可否は設計部門のご判断になります。

Q7. 快削ステンレスはSUS303だけですか?

JIS G 4303には、SUS303のほかにSUS420Fなど被削性を高めた鋼種が規定されています。ただしSUS420Fはマルテンサイト系で焼入れによる硬化を前提とする材料であり、用途が異なります。オーステナイト系で快削性を求める場合の第一候補はSUS303です。

■ 材質選定のご相談を承っています
使用環境と数量をお伺いできれば、SUS303とSUS304のどちらが適しているか、加工の観点も含めてご提案いたします。1952年創業の精密切削加工メーカーとして、図面段階からのご相談に対応しています。材質選定を相談する/お電話: 076-288-7001(平日 8:30〜17:00)

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