
C3604/C3602 は、精密部品加工の現場で最も多用される銅合金のひとつ「快削黄銅」です。鉛(Pb)の含有による独特の切削メカニズムによって、鉄系・ステンレス系をはるかに上回る加工性を発揮し、ねじ・電気部品・継手・コネクタなど量産小物部品の代表素材として定着しています。一方で、近年は RoHS指令などの環境規制に伴い、カドミウム含有量を管理した低カドミ材の採用や、無鉛快削黄銅(C6932 ECO BRASS® 等)への代替検討も進んでおり、選定時には加工性と環境対応の両面で判断が求められます。
本コラムでは、1952年創業・NC旋盤約60台を保有する株式会社ヨシダセイコー(石川県金沢市)の主力銅合金である C3604/C3602 の加工特性について、JIS規格の位置づけ・両者の違い・快削性のメカニズム・切削条件の実数値・RoHS対応・低カドミ材・無鉛代替材の動向まで、実加工現場の視点で体系的に解説します。
1. C3604/C3602とは(JIS H 3250 快削黄銅2種・3種)
JIS H 3250 における位置づけ
C3604/C3602 は、JIS H 3250「銅及び銅合金の棒」 に規定された快削黄銅です。同規格では銅合金棒材を成分・用途別に複数の合金番号に分類しており、その中で「快削性を重視した黄銅」として位置づけられています。
- C3604(快削黄銅2種):Cu 57〜61%、Pb 1.8〜3.7%、Zn 残部。最も切削性に優れた黄銅で、量産小物部品の標準素材
- C3602(快削黄銅3種):Cu 59〜63%、Pb 1.8〜3.7%、Zn 残部。C3604より銅含有率が高く、冷間加工性(カシメ・かしめ・曲げ)に強い
いずれも鉛(Pb)の添加が切削性の決め手であり、Pb量は両者ともほぼ同等です。違いは銅と亜鉛の比率に起因する「冷間加工性 vs 機械的強度」のバランスで現れます。
用途と流通
C3604/C3602 は、棒材(丸棒・六角棒・四角棒)が主な流通形態で、呼び径 φ3〜φ65mm 程度のレンジが標準的です。代表用途は次のとおりです。
- 各種ねじ・ボルト・ナット(電気・建築・水道)
- 電気端子・コネクタ部品
- 配管継手(ガス・水道・空気圧)
- カメラ・時計の精密部品
- 装飾金物・取手金具
2. C3604とC3602の違い早見表
| 項目 | C3604(快削黄銅2種) | C3602(快削黄銅3種) |
|---|---|---|
| Cu含有率 | 57〜61% | 59〜63% |
| Pb含有率 | 1.8〜3.7% | 1.8〜3.7% |
| Zn | 残部(約35〜40%) | 残部(約33〜38%) |
| 引張強さ(参考) | 335 N/mm²以上 | 315 N/mm²以上 |
| 伸び(参考) | 10%以上 | 15%以上 |
| 硬さ(HV参考) | 95以上 | 90以上 |
| 被削性 | ◎(最良) | ○(やや劣る) |
| 冷間加工性(カシメ・曲げ) | △ | ○ |
| 主な用途 | 切削加工が主体の量産部品 | 切削+カシメ・曲げを併用する部品 |
使い分けの基本は 「切削加工だけで仕上げる部品なら C3604、後工程でカシメ・曲げが入る部品なら C3602」です。当社で量産対応するねじ類・継手類の多くは C3604 を採用していますが、コネクタ端子のように切削後にカシメ工程が入るケースでは C3602 を選定します。
3. 快削性のメカニズム — なぜPbを入れると切れるのか
黄銅(Cu-Zn 合金)に Pb を添加すると、なぜ切削性が飛躍的に向上するのでしょうか。これは 「Pb が黄銅母相に固溶せず、微細な粒子として分散する」という独特な組織構造に起因します。
3つの効果が複合的に働く
- 潤滑効果:切削時に Pb 粒子が工具すくい面と切りくずの界面に滲み出し、固体潤滑剤として働く。摩擦係数が下がり、切削抵抗・切削温度の上昇を抑制
- 切りくず分断効果:Pb 粒子は組織内で「弱点」として作用し、せん断面で切りくずを細かく分断。連続切りくずが絡まる問題を解決し、無人運転を可能にする
- 構成刃先(BUE)抑制効果:低摩擦化により工具すくい面への溶着が起こりにくく、加工面の光沢を維持できる
これらの効果が複合的に働くことで、C3604/C3602 は鉄系(S45C)と比較して 切削速度を2〜3倍に引き上げても工具寿命が長く保たれるという、量産加工に理想的な性質を発揮します。
4. C3604の切削条件目安(旋削加工)
推奨切削条件
| 工程 | 切削速度 Vc | 送り f | 切込み ap | 推奨工具 |
|---|---|---|---|---|
| 荒削り | 100〜150 m/min | 0.15〜0.30 mm/rev | 2.0〜4.0 mm | K10〜K20 超硬 |
| 中仕上げ | 120〜180 m/min | 0.08〜0.15 mm/rev | 0.5〜1.5 mm | K10 超硬・コーティング無 |
| 仕上げ | 150〜250 m/min | 0.04〜0.08 mm/rev | 0.1〜0.5 mm | K10 超硬・PCD(量産時) |
すくい角は ポジティブ 0〜10°が標準的です。コーティングは基本不要で、無コーティングの K10〜K20 超硬チップで十分な工具寿命が得られます。長期量産では PCD(ダイヤモンド焼結体)チップを採用すると、ロット数千個レベルまで安定した品質を維持できます。
深穴ドリル加工での注意点
C3604/C3602 の弱点として、深穴ドリル加工時に Pb が刃先付近で流動化し、刃の欠けやチッピングを誘発するケースがあります。L/D > 5 程度の深穴加工では、次の対策を組み合わせて品質を維持します。
- 専用の銅合金用深穴ドリル(先端角・溝形状最適化)を使用
- クーラント圧を高めに設定し、切粉と Pb 流動物を強制排出
- 送り速度を抑え、ステップフィード(途中で引き戻して切粉排出)を採用
5. ヨシダセイコーのC3604/C3602加工実例
当社では NC旋盤約60台のうち、複数台を銅合金専用ラインとして運用し、C3604/C3602 を中心とした快削黄銅の量産に対応しています。代表的な主力機種は次のとおりです。
- ツガミ B0206-Ⅱ/Ⅲ、SS207-Ⅱ-5AX(NC複合自動盤・スイス型):細物バー材から複雑形状の量産対応。φ20mm 以下の小物部品で威力を発揮
- 中村留精密工業製 NTJ-100(NC複合自動盤):固定型タイプで中径レンジ(φ10〜φ40mm)の量産対応
- シチズン BNA-42S2、ヤマザキマザック QT-100MS 系:細物の高速量産対応
代表的な加工実例として、電気端子・コネクタ部品(φ5〜φ20mm、複雑形状、ロット数千〜数万個)、配管継手(φ20〜φ40mm、ねじ切り+外径仕上げ、月産数千個)、装飾金物(小ロット試作〜中ロット量産)などを継続的に量産対応しています。寸法精度は標準で IT7〜IT8 相当、要求に応じて IT6 まで対応可能です。
設備一覧 はこちらからご覧になれます。
製作/受託加工実績 はこちらからご覧になれます。
6. RoHS指令と適用除外(4wt%除外項目6(c))
RoHS指令の概要
RoHS指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)は、EU で施行されている電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限指令です。鉛(Pb)は規制対象物質のひとつで、原則として均質物質中 0.1wt% 以下が制限値です。
この基準を C3604(Pb 1.8〜3.7%)に当てはめると一見アウトに見えますが、RoHS指令には「適用除外項目」が定められており、特定用途には除外が認められています。
適用除外項目6(c):銅合金中の鉛 4wt% まで
RoHS指令 Annex III「適用除外項目」の 項目 6(c) では、「銅合金中の鉛 4wt% まで」が認められています。C3604/C3602 の Pb 含有量(1.8〜3.7%)はこの除外範囲内に収まるため、現状では電気・電子機器分野でも継続使用が可能です。
ただし、RoHS の適用除外は欧州委員会による定期的な見直しが行われており、永続的に保証されたものではありません。除外項目の更新動向は 欧州委員会の RoHS指令公式ページ や、輸出先の業界団体・客先要求事項を継続的にチェックする必要があります。
参考サイト JETRO(日本貿易振興機構) RoHS(特定有害物質使用制限)指令の概要:EU
見落とされがちなカドミウム(Cd)規制 — 銅合金への適用除外がない最厳格項目
RoHS指令の規制対象は鉛だけではありません。カドミウム(Cd)は制限値 0.01wt%(100ppm)と、規制物質の中で最も厳しい基準が設定されています。しかも、鉛の項目6(c)のような銅合金全般を対象とした適用除外は、Cdには設けられていません(電気接点など一部用途の限定的な除外のみ)。
黄銅は亜鉛原料やリサイクル原料に由来する微量の Cd を含み得るため、「鉛は適用除外6(c)でクリアできているのに、Cd で基準を超える」という事態が起こり得ます。この課題への現実的な対応が、次に解説する低カドミ材です。
7. 低カドミ材(低カドミウム快削黄銅)という選択肢 — 当社の主な環境対応
環境規制対応というと無鉛化が注目されがちですが、切削加工の現場で広く採られている現実的な対応が低カドミ材(低カドミウム快削黄銅)の採用です。当社ヨシダセイコーでも、環境法規制への対応としては低カドミ材を主体に使用しています。
低カドミ材とは
C3604/C3602 と同じ快削黄銅でありながら、不純物として混入し得るカドミウム(Cd)の含有量を低く管理した材料です。JIS H 3250 の化学成分規定には Cd の項目がないため、伸銅メーカー各社が RoHS の制限値(0.01wt%)を確実に下回る水準で Cd を管理した材料を供給しており、ミルシート(材料検査証明書)で Cd 値を確認できます。
低カドミ材のメリット
- 被削性・機械的性質は C3604/C3602 と同等:成分は通常材とほぼ同じため、セクション4の切削条件をそのまま適用できます。無鉛材のような切削条件の見直しや工具寿命への影響がありません
- コスト影響が小さい:素材コストが 20〜40% 上がる無鉛快削黄銅に比べ、低カドミ材は通常材との価格差が生じにくく、量産部品でも採用しやすい選択肢です
- 含有化学物質調査に対応しやすい:客先からの chemSHERPA 等の含有化学物質調査に対し、ミルシートを根拠に Cd 値を回答できます
「RoHS 対応のために必ず無鉛材へ切り替えなければならない」わけではなく、鉛は適用除外6(c)の範囲内・Cd は低カドミ材で管理、という組み合わせが、加工性とコストを犠牲にしない現実解になっています。
8. 無鉛快削黄銅(C6932/CW724R)への切替検討ポイント
低カドミ材でカバーできるのはカドミウム規制までであり、鉛(Pb)規制そのものへの対応が求められる場合は無鉛化が選択肢になります。RoHS適用除外の見直しに備え、または飲料水接触部材(鉛溶出規制対象)への適用を見据え、無鉛快削黄銅への代替が進んでいます。代表的な代替材は次のとおりです。
- C6932(ECO BRASS®/三菱マテリアル):Bi(ビスマス)・Si(ケイ素)添加で C3604 と同等の被削性を実現
- CW724R(EN規格・Si黄銅):欧州で普及する Si系無鉛黄銅。飲料水接触部材で多用
- BS01/DZR黄銅:脱亜鉛腐食を抑制した Pb 規制対応材
無鉛材は素材コストが C3604 より 20〜40% 高く、切削条件も若干シビアになります(Vc を 80〜120 m/min に抑制、工具寿命がやや短縮)。ただし、Vc を調整すれば実用上の加工性は C3604 と比較しても遜色ない範囲で扱えます。
切替判断の3ステップ
- ① 用途別の規制適用範囲を確認:電気・電子機器(RoHS)、飲料水接触(鉛溶出規制)、自動車(ELV指令)など、製品の最終用途で要求される規制を整理
- ② サンプル試作で加工性検証:無鉛材は素材ロットによる切削条件差が出やすいため、量産前に複数ロットで試作評価
- ③ コスト・納期の総合判断:素材コスト+加工コスト+規制対応リスクの3軸で比較
C3604/C3602加工のご相談はヨシダセイコーへ
株式会社ヨシダセイコーは、C3604/C3602 を主力に、リン青銅(C5191/C5441)、アルミ青銅(C6161/C6191)、青銅鋳物(CAC406C/BC6)、リン青銅鋳物(PBC2)、純銅系(C1020/C1100/C1220)、高力黄銅(C6782)、鍛造黄銅(C3771)、黄銅板(C2801)まで、幅広い銅合金加工に実績があります。
「C3604/C3602 で量産部品を試作したい」「低カドミ材で環境規制に対応したい」「無鉛快削黄銅への切替を検討中」「他の銅合金との切削条件比較を相談したい」など、銅合金加工に関するご相談はお気軽にお寄せください。内容にもよりますが、図面の段階から最適な材料選定・切削条件・後加工をご提案します。お問い合わせは お問い合わせフォーム、またはお電話(076-288-7001 平日 8:30〜17:00)まで。ISO9001:2015 / ISO14001 取得企業として、品質と環境の両面でご安心いただける体制でお迎えします。
